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最高裁判所第一小法廷 昭和36年(オ)1307号 判決 1964年1月23日

主文

原判決を破棄し、本件を高松高等裁判所に差し戻す。

理由

上告代理人弁護士島崎鋭次郎の上告理由二について

所論の点に関し、原判決が当事者間に争のない事実及び挙示の証拠によつて認定した事実に基づいて確定した事実によれば、被上告人は上告人に対し昭和三一年一月頃自己所有の本件山林の売却方の斡旋を依頼し、同時に右斡旋の報酬として、もし代金一八〇万円で売れた場合には金二〇万円を、金二〇〇万円で売れた場合には金三〇万円を、それ以上に売れたときは三〇万円とその超過額を与える外上告人が予て被上告人に負担していた金一〇万円の借入金債務を免除する旨の停止条件付契約を締結したところ、他方において被上告人は昭和三一年九月二二日頃本件山林を訴外清水貞雄に対し代金一六五万円で売却して了つたというのである。してみれば、上告人の前示斡旋事務の処理は、その事務の進行の程度如何にかかわらず、被上告人の清水貞雄に対する右の売却に因り履行不能に陥つたものと解すべきであるから、被上告人は故意に前示停止条件の成就を妨げたものと云わなければならない。尤も、原判決は挙示の証拠により、被上告人は右の売却交渉中四回にわたりその妻女を上告人方に遣わし「九州から本件山林を買いに来ており、その返事をしなければならないから来てくれ」と伝え、上告人が来れば九州の買手のことを話し相談する下心であつたが、上告人において来会しなかつたので、遂に相談ができなかつたとの事実を認定しているが、そのような一事があつたからといつて、さきに前示のような停止条件付契約を締結し右条件の存在することを熟知していたであろう被上告人としては、右条件の成就を妨げる故意がないものということはできない。果して然らば、上告人において右条件が成就したものと看做し得べく、且つ被上告人において前示斡旋の依頼(準委任契約)の解約を申入れた等の主張且つ立証のない本件に在つては、被上告人は上告人に対し報酬として少くとも金三〇万円の支払義務を免れないと同時に前示債務免除の特約もその効力を生じたものと云わざるを得ない。原判決は、上叙の関係に毫末も思を致さず、極めて安易に、被上告人が本件山林を売却したことを以て前示停止条件の成就を故意に妨げたものとは認めることはできないといつているのであつて、右は審理不尽、理由不備の非難を免れないばかりでなく、判決に影響するところの重要な法令に違反しているものと言わざるを得ず、本論旨は結局理由あるに帰する。

同三について

原判決の確定した事実認定のもとでは、上告人は前掲停止条件が成就すれば取得したであろう報酬金貰受の権利を失うに至つた外、免除されたであろう債務を免除されなくなつたのであり、右は被上告人の故意に因るものと認めざるを得ないことは前段説示のとおりであるから、被上告人は上告人の有するいわゆる期待権を故意に侵害した不法行為の責を免れないものと云わなければならない。原判決は、この場合被上告人に過失がなかつた旨を種々論述しているが、故意による不法行為の成立する場合過失の有無は問題とするに足りないこと多弁を俟たないところであるから、他に首肯するに足る何等かの特段な事情の説明のない限り、不法行為を云為する上告人の予備的主張はこれを容認せざるを得ないものと考える。すなわち、原判決には以上の点においても、審理不尽、理由不備ないしは判決に影響ある重要な法令違反の瑕瑾あるものであつて、本上告論旨も亦理由あるに帰する。

然らば、判決は、爾余の論点について審及するまでもなく、破棄を免れないから、当裁判所は本件を原審に差戻して更に慎重審議をさせるのを相当と認め、民訴四〇七条一項に従い、裁判官全員の一致で主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 入江俊郎 裁判官 斉藤朔郎 裁判官 長部謹吾)

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